風邪をひいたと外来に診察を受けに来られた患者さんにいつからひいたか伺うと、「2、3日前から」、「1週間前から」、時に「1か月前から」なんていうのもあります。しんどい(長崎では「きつか」)のによう頑張ったねえと励ましますが、聞けば病院に来られない事情がいろいろあるようです。
かぜは、鼻からのどにかけての空気の通り道、つまり上気道といわれる呼吸器の感染症で、原因の大半がウイルスです。症状は、くしゃみ・鼻水・鼻づまり・のどの痛み・咳・たんなどが共通してみられ、発熱・頭痛・全身倦怠感を伴うこともあります。これらをまとめて「かぜ症候群」と呼びます。一般には1週間程度の経過で自然に治りますので、治療は対症療法が中心です。また、安静と十分な水分補給、保温や睡眠などの一般的対処もとても大事です。
「かぜ」と思っていても症状が1週間以上も続くときには他の病気を考える必要もあります。免疫力の弱い乳幼児、妊婦、高齢者や慢性呼吸器疾患、心疾患などの基礎疾患を有する場合には細菌性肺炎や気管支炎の合併に注意が必要です。(日本呼吸器学会から引用)
さて、外来診察では患者さんの話を聞くことが一番重要になります。話をもとに、診察では「目で見る」、「耳で聞く」、「触れて感じる」ことなど五感を使って病気の状況を考えます。特に患者さんには嫌がられることがありますが、喉を診るのが私の得意とする仕事です。聴診も当然ですが短時間で全身状況を概ね把握します。病状を推測し、場合により検査をします。検査がすべてではないということです。検査で大したことがなければ良いのですが…。風邪はいろんな症状がその時期によって現れます。これらの時期と症状、さらに身体所見を合わせ考えて風邪の診断をします。ところがとんでもない病気が隠れています。例えば、「のどが痛む」病気には扁桃腺の病気、咽頭異物症、咽頭の腫瘍などがあり、「咳や痰が出る」病気には感染症(細菌性・誤嚥性肺炎、気管支炎、肺結核など)、アレルギー疾患、慢性閉塞性肺疾患、気管支拡張症、薬剤性、後鼻漏症候群、間質性肺炎、気管支癌・肺癌などがあります。「発熱」にはインフルエンザ、胸膜炎、肺結核、肺癌などの病気も考えられます。すべての症状がそろえば風邪というわけではありません。ひとつ、ふたつの症状がいつまでも続くこともあります。日常診療においてこれらの病気をすべて頭の中で思い浮かべているわけではありませんが、みなさんが「風邪だから大したことがない。そのうち治るだろう」と高をくくるのも程々にしないと、そういう人ほど後になってとんでもない病気を抱えて病院にやってきます。
たかが風邪でしょうが、1週間以上長引く風邪にはそれなりの意味があります。風邪と思っていたら実は肺結核、肺癌だったという人もいます。咳だけの患者さんでも初期の治療、検査によっては診断がつかずに3か月間も治らなかった人がいます。皆さんは口々に「もっと早くに来ておけば…」と話されます。
私が外来で診ている患者さんは通院されている人のごく一部ですが、決して自分の専門とする呼吸器疾患の患者さんばかりではありません。他の先生に罹りつけている患者さんのレントゲンや血液検査等を診ていると呼吸器に異常のある患者さんが実に多いと感じています。風邪の治りにくい場合でも、検診で異常を言われた人でも、普段から胸に影があると言われている人、喘息と言われている人、呼吸に関して気になることがあればまずはご相談ください。