がんばれ、がんばれの刺激

がんばれ、がんばれの刺激

現在、医学研究の分野で一際注目を集めているのが、iPS細胞やES細胞、STAP細胞(あるのか、ないのか?)に代表される再生医療ですが、私も十数年前、大学院で再生医療の研究をしていたことがありました。

私の実験は前述のようなすごい細胞を用いたものではなく、病気の肝臓に正常な肝細胞を移植して、病気の肝臓を正常な肝細胞でとってかわらせ、病気をなおしてしまおうというものでした。実験を簡単に説明すると、肝臓の病気でもともと、アルブミンを作ることができないラットに正常なラットの肝細胞を分離して、門脈(肝臓に流れ込む血管)から移植するというものでした。そうすると、移植した正常肝細胞が病気の肝臓にすみついて、アルブミを作るようになります。

ただ、これだけでは移植した肝細胞は、十分なアルブミンを作り出すことができません。そこで行ったのが、移植した肝細胞に刺激を与えることです。これに用いたのが肝細胞増殖因子という物質で、その名の通り、肝細胞を増殖させる働きや、細胞を保護する効果など、いろいろな作用があります。簡単にいうと、移植した細胞に「がんばれ、がんばれ」という刺激を与えるわけです。ただ、ここで問題になるのが、刺激の強さです。当時、実験を指導してくださった先生から、刺激の強さ(実際は濃度)として、500と250の強さを作れといわれたのですが、私は間違って、50と250の強さを作ってしまいました。

しかし、実験をすすめると、弱い刺激である50の刺激を与えた肝細胞のほうが、強い刺激である250の刺激を与えた肝細胞より病気の肝臓の中でよく増え、より多くのアルブミンを作り出しました。それどころか、250の刺激では何も刺激しない方よりも悪い結果となりました。間違っているのではないかと思い、何回も実験してみましたが、同じ結果でした。この実験から得たものは、ただ、いたずらに「がんばれ、がんばれ」と細胞に強烈な刺激を与えても、あまり、がんばれず、その細胞に応じた至適な刺激があるということでした(図①、グラフ①)。

茶色に染まっているのが増殖してアルブミンを作っている細胞。刺激50が塊を作って1番よく染まり、次いで刺激0がよい。刺激250になると、塊を作らず、染まりも悪い。
ところで、私は、平戸にきて4年、歳は40半ばに近づいておりますが、最近、初期臨床研修や後期臨床研修の20代の若い先生方と接することがあります。最近、強烈な刺激は研修医の先生方には厳禁なようで、指導医の研修でも研修医を怒ってはいけないとされています。私は、気が短いので、つい、研修医の先生に強い刺激を与えてしまいます。
ところが、強い刺激はまったく効かないことが多いのです。これは私の実験結果と一致します。ただし、私の実験の弱点はいろいろな強さの刺激を作らなかったことで、本当はどれぐらいの強さの刺激がいいのかはわからずじまいでした。同じように、研修医の先生への至適な刺激の強さはよくわかりません。というか、最近は、研修医の先生は大人なので、「がんばれ、がんばれ」と刺激しようがしまいが、あまり関係ないんだろうと思っています。
私は、縁あって地元の中学校の剣道部のコーチをやっています。ここでは、こどもたちに「がんばれ、がんばれ」と結構な強烈な刺激を与え続けています。このこどもたちは、徐々に強くなっていきます。今のところ、めちゃくちゃ強くはなったりしていませんが、それなりに。この刺激が至適な強さなのかはわかりません。私のやった実験で、もっとも大切だったことは、移植する肝細胞のviability(生存能力)を高く保つこと、すなわち、細胞の活のよさです。こどもたちは、活がいいからどんどん成長していくのだろうと思います。ただ、viabilityが高くても、強烈すぎる刺激はよくないように思われます。
ただし、こどもたちは、刺激とは関係なく勝手に成長している可能性はあります。成長していくこどもたちをみていると楽しいので、「がんばれ、がんばれ」と刺激を与え続けていきたいと思います。大学を卒業してから、あちこちにいきましたが、平戸を最後の地にしたいと思っています。この平戸の地で、地域医療と青少年の健全な育成に微力ながら貢献していきたいと思いますので、末永く宜しくお願いいたします。

 (外科 浜田 貴幸)