整形外来には、膝の痛みを訴える人が大勢いらっしゃいます。今回は、その中でも頻度の高い変形性膝関節症についてお話します。
どんな人が変形性膝関節症になりやすいですか?
中高年の肥満女性に多いと言われていますが、若い時に膝のけがをした人や、長年重労働をされてきた人にも起こりやすいと考えられています。変形性膝関節症 は、加齢による関節変化が原因のひとつなので、程度の差はありますが、年を取るにつれてどんな人にも出てくるものです。
なぜ起こるのですか?
膝関節というのは、二足歩行の人間には非常に負担のかかる関節です。例えば、平地歩行時には体重の約1.5~2倍、階段昇降時では約2~3倍、走ったりす る時には5倍以上もの力が、膝関節にかかると言われています。一方で、加齢により、関節や関節周囲の筋肉には退行性変化が出てくるので、関節に過度の負担 がかかることにより、関節を守っている軟骨が摩耗・破壊し、変形性膝関節症が起こると考えられています。
変形性膝関節症になると膝はどういう状態なのでしょうか?
常の膝関節では関節の表面は軟骨で覆われています。弾力性に富んだ組織からなる軟骨は、衝撃を和らげたり、関節の動きを滑らかにしたりしています。また、 滑膜から分泌される関節液は軟骨の成分の1つであるヒアルロン酸を含んだ粘りのある液体で、膝関節がスムーズに動く潤滑油と軟骨の栄養の役割を果たしてい ます。
変形性膝関節症では、軟骨の磨耗や、軟骨・半月板の変性、関節内のヒアルロン酸の減少が起こります。更に症状が進むと、軟骨の磨耗だけでなく、関節の土台 の骨(軟骨下骨:なんこつかこつ)が露出したり骨棘(こつきょく)といった骨そのものの変形が生じたりします。この状態では、膝を動かすたびに硬い骨同士 が直接ぶつかり合うため、強い痛みが見られます。
どのような症状がでてきますか?
立ち上がり時や、歩行の開始時、階段昇降時の膝の痛みがよく見られます。痛みの部位は、膝の内側に感じる人が多いですが、外側や、膝蓋骨の周りに痛みが出 ることもあります。また、炎症が強く起こった場合は、関節液の貯留による関節水腫が見られ、膝が腫れて曲がりにくくなります。症状が進んでくると、膝関節 の動きが制限され、外見上も変形が見られるようになります。
どうやって診断しますか?
外来で膝の動きや状態を診察し、レントゲン検査を行います。必要な場合はMRI検査や関節液を検査して調べることもあります。
治療法はどのようなものがあります?
痛みの程度や、関節の変形の程度に応じて、保存的治療や手術的治療があります。
保存的治療では、膝関節周囲の筋力強化や体重の減量をしていただきながら、変形のタイプに合わせて足底板を装着する方法、消炎鎮痛剤の湿布や内服、関節の中にヒアルロン酸製剤を注射したりする方法で治療していきます。
保存的療法で効果がなく、痛みや変形のために日常生活に支障が出てくるようであれば、手術的な治療を検討します。手術の方法としては、関節鏡で膝の中を観 察しながら、痛みの原因となっている変性した内容物を除去する方法や、変形した下肢のアライメントを矯正する方法があります。更に症状が進み、関節軟骨が 破壊され、痛みや変形を強く認める場合には、膝関節を人工の膝関節で置き換える、といった人工膝関節置換術を行います。
変形性膝関節症を予防する方法はありますか?
まずは、体重の増加に気をつけること、肥満の傾向のある人は少しでも減量すること、そして下肢、特に膝周囲の筋力を強化することです。
膝の痛みが既にある人では、ウォーキングやジョギングは難しいため、水泳やエアロバイクなど、膝に負担をかけずにできる運動をお勧めしています。また、膝に負担をかけずにできる簡単な筋力トレーニング方法もあります。
膝の痛みをもたらす疾患には、変形性膝関節症の他に、関節リウマチや半月板・靱帯損傷、稀ではありますが、骨壊死や骨腫瘍など、さまざまな病気が隠れていることがあります。
膝の痛みが気になっておられる人は、見過ごしにせずに一度は整形外科外来で診察を受けてみてはいかがでしょうか。