食後しばらくたってから右のみぞおちあたりに、キリキリと差し込むような痛みを感じたことはあ
りませんか?実際、痛みも数十分から3時間程度で治まるのでそのままにしている人が多いようですが、これは胃腸の疾患ではなく胆石によって引き起こされている場合があります。
胆石はありふれた病気で日本人では10人から20人に1人、女性は男性の2倍の発生率があり、中年以降になると1割くらいが胆石持ちだと言われています。近年、食生活の欧米化に伴い、発生率はさらに増加してきています。
また、胆石は胆のうだけにできるのではなく、肝臓と十二指腸を結ぶ「総胆管(そうたんかん)」や、肝臓の中にできることもあります(図①)。
胆石症の痛みは、胆のうの中で石が移動して、胆のうの出口の狭いところに詰まったときに平滑筋が収縮、痙攣(けいれん)することで起こりますが、石が抜けると、痛みが消えてしまうのです。本来、胆石症は進行しない限り良性の病変です。
しかし、この発作が長引くと急性胆のう炎、その症状が進行すると胆のうの腫れが強くなり、時には胆のうが破裂、広範囲の腹膜炎を起こし死に至ることもまれにあります。
激しい痛みで発症し、治療のタイミングを逸すると、まれに重篤な事態を招くこともある胆石症ですが、最近では検査の精度が進歩して、症状のない状態でも発 見することが可能となりました。平戸市民病院では、簡単に行える超音波検査で9割の胆石が診断されています。写真①は実際の超音波検査で見た胆石です。黒 く抜けたところが胆のうで、中にある白いものが胆石です。
胆石の治療
胆石症を治療するにあたって、無症状の場合はそのまま経過を見ることが大半です。いわゆる胆石持ちの方で将来、胆のう炎や胆管炎を発症する確率は3割程度 です。しかし、胆石の数や大きさ、部位、性状によっては無症状でも治療(手術)を必要とする場合があります。「手術は怖いのでまずは薬で溶かしてほしい」 とおっしゃる患者さんも多いのですが、手術を行わないで内服薬で胆石を溶解する治療や、胆石に体の外から衝撃波をあて割ってしまう治療には限界があるよう です。薬で溶けてなくなってしまう胆石はまれで、衝撃波をあてる治療は特殊なケースを除き現在ではほとんど行われていません。
インターネットを見ると、「漢方で胆石が消えた」「気功で胆石の痛みをとる」「胆石に効くツボがあります」などといった宣伝が横行しています。長年、胆石を専門にしてきましたが医学的にはこれらの治療(宣伝)は無効と思われます。
もっとも安全な治療は「腹腔鏡下胆のう摘出術」(写真②)という手術だと考えられています。以前は10センチ以上お腹を切開していましたが、この腹腔鏡下 胆のう摘出術は1センチ程度の穴を4か所あけるだけで胆のうをとってしまいます。手術後の回復も早く現在ではこの手術が主流となっています。特殊なカメラ や機材が必要ですが、平戸市民病院でも年間15例以上の腹腔鏡手術を行っています。
総胆管に石が詰まったら
胆石の多くは胆のうの中にとどまっていますが、小さいと胆のう管という管を通過し総胆管に落ちてしまいます。総胆管に落ちた石が十二指腸に落ちてしまうと 激しい痛みの後、症状はなくなりますが膵炎を合併することがあります。石が1個だけだと発作は1回で終わりますが、小さい石はたくさんあることがほとんど です。また、十二指腸に落ちない場合は、胆汁の流れが滞り、黄疸が発症します。こうなると生命の危険にさらされます。
総胆管の石を取り除くには手術が必要ですが、お腹を切開することなく内視鏡(胃カメラ)で取り除く手術が行われるようになり、患者さんの負担を大分減らすことができるようになりました(図②)。技術的にも難しい手術ですが、平戸市民病院では年間6例の手術を行いました。
胆石を持っている人はたとえ症状がなくても半年に一度ぐらいは血液検査や腹部エコーなどの検査を受け、肝機能の異常がないことや、胆嚢壁に異常がないかどうか検査してください。
(副院長 堤 竜二)