季節の変わり目はついつい風邪など体調を崩しがちです。風邪薬は現在、病院以外でも薬店、コンビニなどで多く市販され流通しています。一方、風邪薬が今のように一般的でなかった江戸時代は経験を通して植物などに薬効を見出し利用していました。
「長崎の夏はビワで始まる」と言われるように夏の始めを告げる果物で、長崎県が収穫量1位を誇る物が「ビワ」です。このビワは古くから果実として舌を楽しませるとともに、薬用植物として民間療法に用いられて来ました。江戸時代に書かれた平戸藩の書物にもしばしば登場します。
ビワの効能は種子や葉に含まれる青酸配糖体であるアミグダリンという成分が咳や痰を鎮め、トリテルペノイドであるウルソール酸、オレアノール酸という成分は炎症を抑える効果等を示し現在でも、「ビワ茶」、「ビワ酒」などとして用いられています。ビワ由来ではないものの市民病院でもアミグダリンを使った咳止め、去痰薬を処方しています。
同じビワでも、イヌビワと呼ばれる植物があります。見た目はビワに似ているが味は劣るという意味で、「イタビ」とも呼ばれます。同じ仲間のオオイタビは「絡石藤」という漢方薬に用いられ神経痛やリウマチに効果があるとされています。
もう一つ、夏を告げる風物詩である「ホタル」の名所、中津良川沿いに「イタブ岩」という字名 (地名)があります。これはイタビが生えた岩という意味で、実際に上中津良町の白岳神社脇に鎮座しています。
元慶元 (877) 年9月25日、志々伎神社祭礼に向かう朝廷の勅使一行に対し、志々伎神社の神がその神威を示すため、白岳の下を通過する一行の目の前に巨大な霊石を落下させたと伝えられています。この巨大な霊石に人々は畏敬の念を感じ、その脇に社を作り祀ったのが白岳神社の起こりとされています。「イタブ岩」はその巨大な容貌をもってかつての神威を示すとともに、今はひっそりと漢方という新たな優しい神秘までをも帯びて静かに私たちの生活と健康を見守っています。
夏本番は間近です。お風邪など召されませんようご注意ください。